働き方を変えるDXサービスを提供するSansan株式会社。同社が主催するビジネスカンファレンス「Sansan Innovation Summit」は、単なる製品紹介の場ではない。既存顧客のエンゲージメントを高め、新規顧客との接点を創出する、同社にとっての「フラッグシップ」イベントだ。
しかし、数千名規模の来場者を迎える大規模イベントだからこそ、現場では「顧客の顔が見えない」「営業との連携が間に合わない」という課題に直面していた。 2024年、イベントプラットフォーム「EXPOLINE(エキスポライン)」への回帰を決めた彼らが目指したのは、徹底したデータ連携による「顧客体験(CX)」と「営業体験(EX)」の同時変革だった。
イベントオーナーを務めたSansan事業部の江口氏、プロジェクトを牽引したBill One事業部の北川氏、そして導入を支援した弊社の政岡を交え、その舞台裏を語り尽くしてもらった。
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企業・担当者紹介
■クライアント:Sansan株式会社
「出会いからイノベーションを生み出す」をミッションに、働き方を変えるAXサービスを提供。ビジネスデータベース「Sansan」や経理AXサービス「Bill One」、取引管理サービス「Contract One」、データクオリティマネジメント「Sansan Data Intelligence」を展開し、世界のビジネスインフラになることを目指す。
江口氏
Sansan株式会社 Sansan事業部 マーケティング部 エンタープライズマーケティンググループ Sansan Innovation Summit 2025のイベントオーナーとして、予算管理、全体コンセプトの策定、最終的な意思決定を担う。
北川氏
Sansan株式会社 Bill One事業部 マーケティング部 コンテンツプランニンググループ マネジャー 、Sansan Innovation Summit 2025では、システム構築やデータマネジメント、集客戦略のプロジェクトを統括。
■システム提供:デジタルエクスペリエンス株式会社(以下、Dex)
イベントプラットフォーム「EXPOLINE」の開発・運営を行う。デジタル領域の専門知見を軸に、イベントのDX化を牽引。単なるシステム提供に留まらず、新たな体験価値の提供とビジネスの成長を加速させる。
政岡
ディレクターとして、本プロジェクトのシステム構築、コーディング、外部ツール連携のサポートを担当。
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プロジェクト概要:全社で挑む「フラッグシップ」の意義
ー 本日はよろしくお願いいたします。まずは、今回の「Sansan Innovation Summit 2025」が、御社にとってどのような位置付けのイベントなのか、改めてその目的や背景からお聞かせいただけますか?
江口氏 よろしくお願いします。Sansan Innovation Summitは、弊社が開催する年間イベントの中でも最大規模の、まさに「フラッグシップ」と呼べるカンファレンスです。 2019年から開催しているのですが、当初は既存のお客様のみを対象とした、いわゆる「カスタマーサクセス」や「アップセル・クロスセル」を目的とした場でした。しかし、現在では目的を拡張しまして、既存のお客様だけでなく、これから導入を検討されている新規のお客様にもご来場いただき、活用事例を通じてイノベーションの種を持ち帰っていただく、そんな「出会いの場」へと進化させてきました。
ー 既存と新規、両方を対象にされているんですね。
江口氏 はい。 弊社にはビジネスデータベースの「Sansan」だけでなく、経理AXサービスの「Bill One」、取引管理サービスの「Contract One」といった複数のプロダクトがあります。Sansan Innovation Summitの大きな目的の一つは「NRR(売上維持率)の最大化」です。例えばSansanをお使いのお客様にBill Oneの価値を知っていただく。そういったプロダクトの枠を超えた複合的な提案ができる唯一無二の場なんです。
北川氏 私は普段Bill Oneのマーケティングを担当していますが、このSansan Innovation Summitに関しては、事業部の垣根を超えて「全社の成果」を最大化するために動いています。 今回は特に、オフラインでの「体験」を重視しました。来場されたお客様が、登壇企業の熱量あるセッションを聞き、ラウンジで社員と語らい、Sansanという会社の文化に触れる。そうしたリアルな接点から、具体的な商談や受注といった成果に繋げていくことが最大のミッションでした。
江口氏 実は今回、キーノートの前に新たなプロダクトの記者発表会も行ったんです。お客様に対してはもちろんですが、全社員、さらには内定者も含めて「我々はどこに向かうのか」というメッセージを共有する場でもありました。それくらい、会社としての意志が込められたプロジェクトなんです。

(左から)北川氏、江口氏
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プロジェクト推進体制:異なる部署のメンバーで構成した組織横断チーム
ー 全社的なイベントとなると、関わる人数も相当な規模になりそうですね。今回はどのような体制でプロジェクトを推進されたのでしょうか?
江口氏 半年以上前から関わっているコアメンバーは約30名いました。役割分担としては、私が「イベントオーナー」として、予算管理や全体KPI設計、そして各ステークホルダーとの調整や意思決定を担当しました。一方で、北川さんはシステムやデータオペレーションの要件定義から構築、集客戦略のプロジェクトをリーダーとして担当してくれました。
ー 江口様がSansan事業部、北川様がBill One事業部と、異なる部署のお二人がタッグを組まれていますよね。
江口氏 そうですね。普段は別々のミッションを追っていますが、Sansan Innovation Summitではワンチームです。私たちの他にも、ブランドの世界観を守る「クリエイティブチーム」、各セッションの中身を作る「コンテンツチーム」など、事業部や部署の垣根を越えて多くのメンバーが関与しています。私の役割は、それらのチーム間の調整や、北川さんが上げてくれたプランに対して「それでいこう」と決断することでした。
北川氏 私はシステム構築のプロジェクトリーダーとして、とにかく「やりたいこと」をどう「実現可能な形」に落とし込むかに注力しました。 Dexの政岡さんには、私のカウンターパートとして、かなり細かいシステム要件の相談に乗っていただきましたよね。
政岡 はい。定例ミーティングには御社のデザイナー様やエンジニア様にも入っていただき、デザインの微調整からデータ連携の仕様まで、膝を突き合わせて議論させていただきました。江口様、北川様をはじめ、皆様が専門領域でプロフェッショナルな動きをされていたので、弊社としても非常に連携がしやすかったです。
江口氏 内製チームと外部パートナーさんがここまでシームレスに連携できたのは、今回の勝因の一つかもしれませんね。

Sansan株式会社 江口氏
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課題と振り返り:「見えない」もどかしさと、登録の壁
ー 今回の導入にあたって、過去の開催における「課題」はどのような点にあったのでしょうか? 2024年は他社ツールを利用されていたと伺っています。
北川氏 最大の課題は、Web上の「登録フロー」におけるユーザー体験と、そこから生じる離脱の問題でした。 前回利用したツールでは、システムの使用上、まず「会員登録」をしてアカウントを作り、その後に改めてログインして「セッション選択」をするという2段階のステップが必要でした。
ー ユーザーからすると、少し手間に感じてしまうフローですね。
北川氏 そうなんです。結果として、とりあえず会員登録だけして、セッションを選ばずに離脱してしまう方が非常に多かった。 運営側としては、直前まで「誰がどのセッションに来るのか」が確定せず、登録を促すための追加メール配信などに追われることになります。これでは歩留まり(参加率)も上がりませんし、我々の工数も圧迫されます。「登録と同時にセッション選択まで完了させたい」というのが、強い要望としてありました。
ー データ管理の面ではいかがでしたか?
北川氏 そこも大きな課題でした。実は前回のツールでは、ユーザー側でマイページ上のメールアドレスを自由に変更できてしまう仕様だったんです。 メールアドレスが変わってしまうと、弊社の基幹データベース上で「この人は誰なのか」という特定、いわゆる「名寄せ」ができなくなってしまいます。正しい顧客管理ができなくなるリスクがあり、データの整合性を厳格に担保できる仕組みが必要でした。

Sansan株式会社 北川氏
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選定の理由:なぜ再び「EXPOLINE」だったのか
ー そこで今回、2023年にも一度ご利用いただいたEXPOLINEに「回帰」されたわけですが、その再選定の決め手は何だったのでしょうか?
北川氏 数社のツールを比較検討しましたが、決め手は「データ管理の堅実さ」と「デザインの柔軟性」、この2点に尽きます。先ほどの課題でお話しした「データ管理」に関して、EXPOLINEであれば「この項目は変更不可にする」「ここは制御する」といった細かい要件定義が可能なだけでなく、弊社の既存システム(MA)や外部システム(LINE、Zapierなど)とも柔軟に連携することができました。我々の運用ルールに合わせて、厳格にデータを守れる点が大きな安心材料でした。
ー デザイン面についてはいかがですか?
北川氏 Sansan Innovation Summitはブランディングを非常に大切にしています。セッション選択画面やマイページなど、お客様が触れる部分のデザインにおいて、我々の世界観を妥協なく表現したかった。 今回は「デザインは自社で行い、コーディングと実装をDexに任せる」という分担にしましたが、この「デザイン持ち込み」に対して柔軟に対応頂けたのもよかったです 。
政岡 通常のSaaS型イベントツールですと、「管理画面で用意されたテンプレート」に当てはめる形になりがちです。EXPOLINEはデータに関しても、デザインについても、機能としての「パーツ」を提供して、ガワは自由に組めるというのが強みですので、そこを評価いただけて光栄です。
北川氏 おかげで、懸案だった「登録と同時にセッション選択」というフローも、思い通りのUIで実現できました 。

Sansan Innovation Summit 2025 イベントLP
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具体的な開発・連携内容:LINEとZapierが起こした革命
ー ここからは、今回のプロジェクトで実装された具体的なソリューションについて深掘りさせてください。特に「LINE連携」と「Zapier活用」はユニークな取り組みでした。
エピソード①:メールの限界を突破する。「LINE」活用の戦略的意図
ー 今回の大きな挑戦として「LINE連携(+Direct活用)」があります。一般的に、BtoBイベントで個人のLINEを活用することに対しては、「ビジネスとプライベートを分けたいのでは?」」「成果につながらないのでは?」 といった懸念の声も多く聞かれます。その点について、御社としてはどのような仮説をお持ちでしたか?
北川氏 おっしゃる通り、一般的にはそういった懸念もあるかと思います。しかし今回のプロジェクトに関しては、むしろ弊社側から「LINEをやりたい」という明確な要望をお伝えしました。 背景にあるのは「メールの限界」です。どれだけ熱い想いを込めたリマインドメールを送っても、最近は埋もれてしまって開封されない。当日までの「歩留まり(来場率)」を上げるためには、メール以外の、より即時性の高いアプローチ手段を持つことが急務でした。
ー なるほど。「メールに代わる新しいチャネル」としての期待ですね。
北川氏 はい。 「ビジネスだからLINEは使わない」という固定観念にとらわれず、「利便性が高ければ、お客様は使ってくれるはずだ」という仮説のもと、あえて目標登録数を「1,000名」という高いラインに設定して挑みました。
ー 実際の結果はどうでしたか?
北川氏 蓋を開けてみれば、945名の方に登録いただけました。目標には惜しくも届かなかったものの、非常に良い結果が出たと捉えています。 そして何より驚いたのが、来場率です。LINE登録をしてくれた層の来場率は、未登録層に比べて+12.5ポイントと圧倒的に高く、結果としてイベント全体の来場数も昨対比129%と大幅に向上しました。
江口氏 これは驚異的な数字ですよね。もちろん、LINE登録をするような方は元々モチベーションが高い層だという前提はありますが、それを差し引いても「歩留まり改善」には明確な効果がありました。 アンケートでも「LINEの通知は便利だった」という声が多数で、懸念されていたような「ビジネスでLINEを使うことへの抵抗感」に関するネガティブな意見は見られませんでした。

ー 具体的に、LINEでどのような通知を送ったのですか?
北川氏 こだわったのは「10分前」と「10分後」です。 セッション開始の10分前に「まもなく始まります」と通知を送る。広い会場で移動するには時間がかかるので、確実に席についてもらうための絶妙なタイミングです。 そして、セッション終了の10分後に、その講演の資料(サマリ)を送りました。
政岡 実はこの通知、単なる通知や資料配布の仕組みではなく、来場者の行動そのものを支援する設計でした。
当日はセッション予約変更や参加、不参加がリアルタイムで発生するため「その時点で必要な人」に最適なタイミングで届ける仕組みにしています。
そのうえで、来場者がその場ですぐ資料を確認できるよう、ダウンロードではなくURLで直接閲覧できる形にしていただきました。
北川氏
はい。通常なら「マイページにログインしてダウンロードしてください」と案内するところですが、今回はLINEのメッセージに、弊社のBox(クラウドストレージ)の直接リンクを貼りました。
ログインの手間なく、スマホでタップするだけですぐに資料が見られる。お客様からは「この通知はありがたかった」「振り返りに便利だった」という声を多数いただき、UX(顧客体験)の向上にも大きく寄与したと実感しています。

Sansan Innovation Summit 2025 参加者のLINE画面イメージ
エピソード②:EXPOLINE×Zapierで実現した「リアルタイムな社内連携」
ー もう一つ、システム連携の面で非常に特徴的だったのが「Zapier」を活用した社内連携の仕組みですね。こちらはどのような意図で実装されたのでしょうか?
北川氏 これは、当日のビジネスラウンジにおける「社内連携の迅速化」を目的としたものです。 会場で来場者様のQRコードを読み取ると、EXPOLINEからリアルタイムでZapierにデータが飛び、そこからGoogleスプレッドシートにログが書き込まれる仕組みを構築しました。
Dex政岡 ポイントは、EXPOLINEが外部連携に柔軟に対応している点ですね。 来場ログを取得するとZapierが動いてGoogleスプレッドシートに来場ログを転記するのと合わせて、担当営業のSlackに通知が飛ぶ。運用に合わせて柔軟なデータ連携を行えるEXPOLINEの強みを活かせたと思います。
北川氏 実はここは、Googleスプレッドシート上でスタッフが「座席番号」を手入力するというアナログな運用も組み合わせていたのですが、これにより営業担当者には「お客様が来場しました」だけでなく、「14-Bの席にいます」という情報が即座に届くようになったんです。

ラウンジ管理表 イメージ
ー デジタルとアナログを組み合わせて、最適なオペレーションを組まれたわけですね。
江口氏 はい。おかげで営業担当からは「迷うことなくお客様の元へ行ける」と大好評でした。 広い会場の中で、お客様を探す時間は大きなロスになりますし、その間に帰られてしまうという機会損失も防ぎたかった。この情報連携によって確実に接点をもてたことで、商談の機会が生まれたケースも多数あり、社内アンケートでも「来年も必ずやってほしい」という声が上がるほどでした。
政岡 システム(Zapier)と運用(人力)を組み合わせることで、コストを抑えつつ「営業が迷わない」という目的を完遂された。まさに運用設計の勝利だと思います。

デジタルエクスペリエンス株式会社 政岡
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今後に向けた話:効率化と、さらなる「熱量」の追求へ
ー 今回の成功を経て、今後Sansan Innovation Summitをどのように進化させていきたいか、お二人の展望をお聞かせください。
江口氏 今回は、社内アンケートでも「イベントに行けばお客様に会える」「商談につながる」という声が多く、イベントに対する信頼感が社内でも確実に醸成されてきたと感じています。 今後は、この熱量をさらに高め、Sansan Innovation Summitを単なるカンファレンスではなく、業界全体の基準を引き上げるようなシンボリックな場にしていきたいですね。
北川氏 私はシステム構築を統括する立場として、やはり「運用の効率化」をもっと進めたいです。 今回はZapier連携などで成果は出ましたが、裏側ではまだスタッフが人力でカバーしている部分も多かったのが正直なところです。次はシステムによる自動化領域を広げ、運営コストを下げながら、より高度なデータ連携を実現したいと考えています。
政岡 自動化という点では、弊社で現在研究中の「UWB(Ultra Wide Band:超広帯域無線)」という技術がお役に立てるかもしれません。 従来のビーコンよりも遥かに精度が高く、お客様が会場のどこにいるかを「10cm単位」で特定できる技術です。これを活用すれば、人力での入力作業をなくし、お客様の位置情報をリアルタイムかつ自動的に把握・通知することが可能になります。
江口氏 それはすごいですね! 以前、別の技術で断念した経緯があるのですが、そこまでの精度で自動化できるなら、まさに私たちが目指す「効率化」と「おもてなし」の両立が実現できそうです。
北川氏 そういった新しいテクノロジーのご提案をいただけるのは非常に嬉しいです。 日本のBtoBイベントは海外に比べてまだ発展途上の部分もありますが、私たちが新しいテクノロジーと、日本らしいきめ細やかな「おもてなし」を融合させることで、新しいイベントのあり方を提案し続けていければと思います。
ー アナログな「心遣い」と、デジタルの「技術」。その両輪を回し続けるSansan様の挑戦に、弊社も引き続き伴走させていただければと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました!

Sansan株式会社 エントランスにて
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編集後記
「10分前の通知」「座席番号の即時連携」。インタビューの中で出てきた数字や仕組みへのこだわりは、Sansanがいかに解像度高く「顧客体験」を見つめているかを物語っていた。 大規模イベントになればなるほど、運営は「処理」になりがちだ。しかし彼らは、テクノロジーを駆使して一人ひとりの来場者を「個」として捉え、最適なタイミングで最適な情報を届けようとしていた。 EXPOLINEがその裏側で、複雑なデータ連携を支える「黒子」として機能した今回の事例。BtoBイベントにおけるDXの、一つの理想形と言えるのではないだろうか。




