イベントの集客や参加者とのコミュニケーションにおいて、大きなブレイクスルーをもたらすと期待されているのが、日本で圧倒的なユーザー数を誇るコミュニケーションアプリ「LINE」を活用したイベントDXです。
本記事では、LINEを軸にした販促ソリューションを提供する株式会社クラブネッツのSOL事業本部 部長冨増諒佑氏と、イベントプラットフォーム「EXPOLINE」を展開する弊社の中島による対談を通して、LINEを活用したイベント運営の最前線を解説します。前編では、多くの主催者が導入するイベントアプリと比較しながら、LINE活用の有用性に迫ります。
LINE公式アカウントの機能を拡張する「+DIRECT」で、
集客力と情報到達率の向上が可能に
中島
はじめに、クラブネッツがどのような企業なのかご紹介いただけますか?
冨増
クラブネッツはIT関連サービスを提供するSHIFTグループの一員で、「集客のための販促DX」「経費削減のための業務DX」「社内活性化のための社内DX」など、多様な企業ニーズに応えるITサービスを手掛けています。

▲株式会社クラブネッツ 冨増 諒佑氏
特に強みとしているのが、LINEを活用した販促ソリューションです。これまで1万アカウント以上のサポート実績があり、LINEヤフーの最上位パートナーにも認定されています。
主力サービスの一つが、自社開発した「+DIRECT(プラスダイレクト)」です。これは「企業が持つ既存の顧客データ」と「企業のLINE公式アカウント(ユーザーのLINE ID)」を統合管理できるプラットフォームです。
LINE公式アカウントの標準機能では「友だち」への一斉配信しかできません。
しかし「+DIRECT」を活用すれば、性別・年代・利用データなどでユーザーをグループ分けし、特定の層に向けた「セグメント配信」が可能になります。
例えば、
● ニーズが大きいと想定されるユーザーに絞ってイベント情報を配信する
● 長期間サービスを利用していない休眠顧客にキャンペーン情報を配信する
といったように、ユーザーの状況に応じたきめ細かな販促施策を展開できます。一斉配信よりも高い反応率が期待できるほか、「ユーザーがどのボタンを押したか」「商品をクリックしたが購入には至らなかった」といった行動データを取得できるため、「クリックはしたが未購入のユーザーにリマインドを送る」といった追客アプローチも可能になります。

▲+DIRECTのシステム全体像イメージ
冨増
全体的にはLINEを通して、見込み客の情報を収集、コミュニケーションを強化して囲い込み、契約や販売まで誘導していくといった流れになります。
複数イベントを主催する企業にこそ有用
一つのデータベースに情報を集約し、集客に活用
中島
LINEと連携するツールはいくつか市場に存在すると思いますが、競合サービスとの違いはどこにあるのでしょうか?
冨増
「複数の外部システムやデータ、そして複数のLINEアカウントを、すべて一つに集約・連携できる」点です。
企業は「リアル店舗」「ECサイト」「展示会」「キャンペーン」など、チャネルごとに個別のシステムやデータベース、LINE公式アカウントを所有しているケースが少なくありません。「+DIRECT」は、それらを横断してLINEによるSNSマーケティングをグループ全体で一貫して効率よく行うことを可能にします。
現在は店舗でのご利用が多いのですが、こうしたLINE活用のノウハウは、イベントとも非常に親和性が高いと考えています。
中島
例えば、複数の展示会を主催する企業がイベントごとにLINE公式アカウントを持っている場合も、「+DIRECT」で統合できるということでしょうか?
冨増
はい、可能です。それによって「過去の展示会参加者に、関連性の高い別の展示会への案内を個別にリコメンドする」といった施策が打てるようになります。
また、LINE公式アカウントには、トーク画面下部にメニューを常時表示できる「リッチメニュー」という機能があります。「+DIRECT」ではこの機能に「タブ」を追加できるため、展示会ごとにメニューを切り替えて表示することも可能です。

▲LINE公式アカウントの「リッチメニュー機能」
最大30枚のリッチメニューを設定し切り替えできます、各マスにURLやクーポンなどを設定して指定したページに遷移させることができる。
+DIRECTでは過去のアンケート回答やID連携の有無によって表示するメニューを切り替える機能も追加可能です。
中島
ということは、イベント毎に訴求が違ったとしても、それぞれ個別の施策をイベント/アカウント毎に設定しながら、データベースはそれらを横断して管理ができるので、顧客が被ったりすることがないということですね!素晴らしい!を
イベント参加者と「つながる」には、
ネイティブアプリよりLINEのほうが障壁は少ない
冨増
ここで、なぜ私たちクラブネッツがLINEを中心としたサービス展開をしているのか、その理由をご説明します。
企業がロイヤルカスタマーを増やしたいと考えたとき、まず広告や宣伝で興味を持ってもらい、そこから「つながり」を構築しようとします。しかし、ここでいきなり「自社アプリをダウンロードしてもらう」というアプローチは、非常に難易度が高いのが実情です。
ネイティブアプリはそう簡単にはダウンロードされません。MMD研究所「店舗公式アプリ利用に関する意識調査」では「公式アプリの平均インストール数は一人当たり約5個」という結果も出ています。実際に、いくつかの企業の「ネイティブアプリのダウンロード数」と「LINE公式アカウントの友だち数」を比較したことがありますが、どの企業も数十倍から数百倍もの差がありました。
中島
近年、イベント業界でも主催者が専用アプリを制作するケースが増えていますが、ダウンロード数が伸びずに苦戦しているという話をよく聞きます。来場者にダウンロードしてもらうために多額のプロモーション費用をかけることもあり、イベントアプリをダウンロードしてもらうこと自体が目的化してしまっており、それは本質から逸れているのではないかと感じていました。
それならば、いっそイベントアプリをやめてLINEで代替できないだろうか、そのほうがユーザーも増えるのではないか、と考えています。

▲デジタルエクスペリエンス株式会社 中島
冨増
ネイティブアプリはプッシュ通知を切られてしまうとメッセージを届けられず、アンインストールされる可能性も高いです。それに対してLINEはメッセージの到達率が高く、アンインストールのリスクも低い。加えて、開発コストも抑えられます。
日本のLINE利用率は非常に高く、20代から60代では80%から90%の方が利用しているというデータもあります。やはりユーザーとつながる手段としては、アプリよりもLINEのほうがスムーズだと言えるでしょう。
中島
ネイティブアプリとLINEの施策は、並行して行うという可能性もございますか?
冨増
基本的にはLINEの施策のみで十分だと考えています。
ただし、すでに自社アプリをお持ちの企業も多いため、「ヘビーユーザー向けのアプリ」と「ライトユーザーも含むLINE」という形で、併用する施策をご提案することもあります。アプリの強みは、自社の他事業も展開できるなど自由度の高さにありますから。
もっとも、その価値も後述する「LINEミニアプリ」を使えば、LINE上で実現できてしまう可能性はあります。
アプリと同じ機能をLINE上で実現
「LINEミニアプリ」で自由度を高める
冨増
LINEのミニアプリをご存知でしょうか?
例えば、ある有名寿司のチェーン店では、LINE公式アカウントに友達登録をすると表示される「LINEで予約」というボタンから「LINEミニアプリ」が起動します。

▲LINEミニアプリ(イメージ)
ミニアプリは、LINE上でネイティブアプリのような機能を提供できるサービスです。スマートフォンのアプリストアからダウンロードする必要はありません。中国のWeChatなどが先行していましたが、LINEも近年はこのミニアプリに力を入れています。
中島
つまり、これまでネイティブアプリで提供されてきた会員証やクーポン、スタンプラリー、オンライン予約といった機能を、LINE上で実現できるということですね。アプリと同様のことができて、なおかつLINE公式アカウントと連携しているから通知も送れる、ということですね。
冨増
その通りです。LINEのAPIと連携させるだけなので特殊な開発は不要ですし、iOSやAndroidの厳格な審査基準に合わせる必要もありません。
これからは、イベントにおいてもネイティブアプリを開発せず、LINEミニアプリを活用するという選択肢が主流になっていくかもしれません。
中島
これは市場が大きく広がりそうですね。
冨増
まだ広く認知されていませんが、ミニアプリは今後大きく成長する分野だと確信しています。なお、「+DIRECT」はクラブネッツが提供するLINE APIツールですので、ミニアプリを実装する場合は「+DIRECT」の環境下で構築するイメージになります。
中島
ネイティブアプリはアプリストアの審査が障壁となり、スケジュール等の問題で実装を断念するケースも少なくありません。LINEミニアプリなら、そうした心配はほとんどなくなりそうですね。
冨増
API連携も通常2週間から1ヶ月程度で完了します。構築にJavaScriptを使う必要がなく、OSの審査やバージョンアップ対応といった維持費がかからない点も大きな強みです。
<後編へ続く>