イベントの集客や参加者とのコミュニケーションにおいて、大きなブレイクスルーをもたらすと期待されているのが、日本で圧倒的なユーザー数を誇るコミュニケーションアプリ「LINE」を活用したイベントDXです。
本記事では、LINEを軸にした販促ソリューションを提供する株式会社クラブネッツのSOL事業本部 部長冨増諒佑氏と、イベントプラットフォーム「EXPOLINE」を展開する弊社の中島による対談を通して、LINEを活用したイベント運営の最前線を解説します。後編ではイベントの前・中・後でのLINEを活用したイベント体験のアップデートをご紹介します。
【イベント前】
情報入力の手間を省き、参加登録と同時にLINEの友だち追加を促す
中島
ここからは、イベントの各フェーズでLINEをどう活用できるか、「イベント前」「イベント中」「イベント後」に分けて具体的に伺っていきます。
冨増
まずポイントとなるのが、「どのタイミングで来場者にLINEの友だち登録をしてもらうか」です。通常、友だち追加にはQRコードの読み取りなどユーザー側のアクションが必要ですが、実はほぼ自動的に友だち追加を完了させる仕組みがあります。

株式会社クラブネッツ 冨増 諒佑氏
中島
それは画期的な仕組みですね。
冨増
LINEが提供する「LINE Profile+(LINEプロフィールプラス)」という機能です。初めて利用するECサイトなどで会員登録をする際に、LINEアカウントでログインできることがありますよね。あれがLINEログインです。
この機能を使うと、ユーザーがLINEアプリに登録している情報(名前、電話番号、メールアドレスなど)を事業者のシステムに自動連携できます。ユーザーは個人情報を入力する手間が省け、登録のハードルが下がることで離脱防止につながります。
そして重要なのが、このLINEログインと同時に、企業のLINE公式アカウントを友だち追加させることができる「ボットリンク」という機能です。

▲LINEログイン→友だち追加機能(ボットリンク)
冨増
これはLINEの認証プロバイダを取得する必要がありますが、イベントの参加登録フローに応用できます。例えば、EXPOLINEと連携する場合、「イベントLPの参加登録ボタンをクリックするとLINEログイン画面に遷移し、認証を許可するとEXPOLINEの登録ページに進む」といった流れが考えられます。
この方法なら、ユーザーに負担をかけることなく友だち追加を促しつつ、EXPOLINEのデータベースにLINE IDなどのユーザー情報を自動で格納できます。
LINEログインを挟むタイミングは参加登録時でなくても構いません。イベント応募後のどこかのタイミングでLINEログインを促せば、参加者のほぼ全員を自社のLINE公式アカウントに友だち追加することも可能です。
中島
ユーザー側の負担がほとんどありませんね。「アプリをダウンロードして登録してください」という手順は非常に負担が大きいですが、このLINE連携であれば極めてシームレスに登録までつなげられそうです。

▲デジタルエクスペリエンス株式会社 中島
冨増
最近はWeb広告でも、広告を見ただけで離脱されるのを防ぐために「LINEでつながる」という手法が多く取られています。Web広告からLINEログインへ誘導すれば、友だち追加と同時に流入経路の測定もできるため、「広告経由で登録してくれた人にだけキャンペーン案内を送る」といった展開も可能です。
また、LINE友だちではないユーザーにLINEで通知を送れる「+LETTER(プラスレター)」というサービスもあります。これは、企業が保有する電話番号と、LINEに登録されたユーザーの電話番号をマッチングさせることで、LINE友だちでないユーザーにもLINEアプリで通知を送れる仕組みです。配送会社から届く「お荷物お届けのお知らせ」などがこの仕組みを利用しています。
中島
電話番号だけでLINEの通知メッセージを送れるのですか。
冨増
はい。ただし、この機能はTechnology Partner認定企業のみが提供できるソリューションです。また、配信できるのはLINEヤフー社がユーザーにとって有用かつ適切だと判断した非営利目的のメッセージに限定されるため、利用には工夫が必要です。
【会期中】
LINEのセグメント配信やリッチメニューで体験を後押し、参加者の行動を促す
中島
イベント会期中では、どのような活用が考えられますか?
冨増
代表的なのは「リマインド配信」です。「+DIRECT」を活用し、特定のセッションに登録している方だけに、開催前日や1時間前に「12時からセッションが開催されます」といったリマインドメッセージを自動でセグメント配信できます。
中島
ユーザーのスマートフォンには、LINEからのプッシュ通知が届くわけですね。
冨増
その通りです。先ほどご紹介した「リッチメニュー」に、EXPOLINEのマイページを開くボタンを配置することも簡単です。
中島
それによって、どのようなメリットが生まれるのでしょうか?
冨増
まず、ユーザーがLINEアプリから離脱しにくくなります。LINEのトーク画面から直接マイページが立ち上がり、別ブラウザを開くことなく操作が完結するためです。
さらに、EXPOLINEのデータを「+DIRECT」がAPI経由で受け取る環境を構築すれば、LINE上に「あなたの次の予定は〇〇です」といったパーソナライズされた情報を表示させることもできます。
中島
まさに「マイスケジュール」ですね。イベントによっては、予約したセッションのカレンダーと、商談相手のカレンダーが別々のページに分かれていて複雑な場合があります。それらをLINE上で整理し、マイカレンダーとして一つに集約できそうです。
冨増
はい。EXPOLINEのデータを、LINE上という見慣れたインターフェースで見やすく表示できるということです。
次に、「差し込み配信機能」もイベントと相性が良いでしょう。通常のLINE公式アカウントでは全員に共通のメッセージしか送れませんが、「+DIRECT」ではユーザーごとに異なるテキストやURLを一括で差し込んで配信できます。この機能を活用すれば、セッションの登録状況や興味関心に応じて「Aのセッションはいかがですか」「Bのブースがおすすめです」といった形で、一人ひとりに最適化された誘引が可能です。

▲差し込み配信機能のイメージ
中島
セッション登録やブースへの来訪を効果的に後押しできる機能ですね。
冨増
会場内でのスタンプラリーやポイントラリー企画も面白いと思います。例えば、「各ブースを訪れるたびにポイントが貯まり、一定数に達するとギフトコードをプレゼントする」といった施策です。
中島
その場合、ユーザーは何をすればポイントが貯まるのでしょうか?
冨増
各ブースに設置したNFCタグにスマートフォンをタッチしてもらうだけです。クラブネッツでは「+PUT(プラスプット)」というサービス名で提供しています。タッチするたびにサーバーと通信し、「誰が、何時に、どのタグにタッチしたか」という行動データもすべて取得できます。

▲+PUT 利用イメージ
中島
いいですね。「QRコードを読み取る」形式のスタンプラリーもありますが、カメラを立ち上げる手間が省ける分、NFCタグのほうがよりスムーズで上質な体験を提供できそうです。
冨増
NFCタグ自体は1枚数百円と安価なため、主催者側も導入しやすいと思います。

▲NTAG ※この図は店舗で活用した場合の事例です
【イベント後】
メッセージの配信頻度や内容を適切にコントロールすることで、ブロックを防ぎ参加者との接点を継続させることが重要
中島
イベント終了後、LINEを通じてどのようなアプローチができますか?
冨増
「+DIRECT」の機能を活用してアンケートを実施したり、参加者の行動履歴に基づいてパーソナライズされた情報を配信したりできます。例えば、「特定のブースに立ち寄った参加者」だけに、関連性の高い製品情報や次回のセミナー案内を送るといったアプローチが可能です。
中島
裏側で設定したロジックに基づいて、自動で配信を行う仕組みですね。
冨増
はい。そのロジックは「+DIRECT」側で構築できますし、その情報をEXPOLINEに渡して、さらに複合的な配信戦略を練ることもできます。
重要なのは、+DIRECTではLINE公式アカウントと違い、誰がクーポンを使ったか、誰がURLをタップしたかまで全て追跡できる点です。これにより、主催者は詳細なデータを取得し、より効果的なマーケティング施策を展開できます。
中島
多くのイベントは年に1〜2回程度の開催です。その間に参加者がLINEの友だちをブロックしてしまう懸念がありますが、離脱を防ぐにはどのようなコミュニケーションが効果的でしょうか?
冨増
アプローチは2つあります。一つは、意外かもしれませんが**「イベントがない期間はメッセージを送らない」**ことです。メッセージを送らなければ、基本的にブロックされることはありません。メッセージを送ると、どうしても一定数のブロックは避けられないからです。
中島
しかし、連絡できる手段があるのにメッセージを送らないのは、主催者としてはジレンマを感じそうです。
冨増
その通りです。そこで、もう一つのアプローチとして、メッセージを送る場合は「ブロックされにくい工夫」をすることが重要になります。
よくあるのは、プレゼントが当たる「キャンペーン案内」と「企業の告知」をセットで配信する手法です。横にスクロールできるカルーセル機能を使えば、複数の情報も自然な形で見せられます。さらに、プレゼントの当選発表や付与を数ヶ月後に設定することで、ブロックされにくい状況を作ることもできます。
中島
主催者は、イベントがない期間にも接点を持ちたいと考えてLINEを導入する場合が多いと思います。そのため、ついタッチポイントを増やそうと考えがちですが、むしろ配信を抑制することで、いざという時にLINEが持つ体験価値を最大限に活かせるということですね。
冨増
はい。特典や有益な情報を提供すること、そして配信頻度を適切にコントロールすることが重要です。私たちのデータを見ても、月1回または2ヶ月に1回程度の配信頻度であれば、ブロック率は低い傾向にあります。
中島
頻繁な配信は避けるべき、ということですね。
私たちもEXPOLINEの提供だけでなく、イベント全体のコミュニケーション設計を担うことがあります。今後はLINEやミニアプリも含めて提案の幅を広げていきたいと考えておりますので、ぜひ、今後とも連携させていただければ幸いです。
冨増
もちろんです。本日はありがとうございました。