今回はピープルデザイン研究所の田中真宏氏と、博展の鈴木亮介氏をお招きして、弊社中島とイベントの開催において直面する「サステナブル(持続可能性)」における課題について対談を行いました。非常に白熱した対談となりましたので前編・後編に分けてお届けいたします。(本記事は後編となります)
前編はこちら>
田中真宏氏(NPO法人ピープルデザイン研究所 代表理事)
2012年から、障害者・高齢者・外国人・子育て中の父母の方など、身体上やコミュニケーションにバリヤを持つ方を対象に、多くのイベント・プロジェクトを手掛ける。
鈴木亮介氏(株式会社博展)
サステナビリティ推進部で主にサーキュラーデザイン(循環型経済のためのデザイン)を担当。
サーキュラーデザインによる持続可能なイベント運営
中島
前編では合理的配慮の具体例をお伺いいたしました。
このような事例は日本国内特有の事例になるのでしょうか?
田中
いえ。最近メンバーが海外の図書館に視察へ行ったのですが、ちゃんとわかりやすくアイコンサインが出ていたり、空間のいたるところに休憩スペースや閉鎖的なスペースが配置されていたりしたそうで、世界共通、むしろ日本は遅れていると思っています
中島
鈴木さんはサーキュラーデザインの調査のために最近オランダへ行かれたそうですね。
鈴木
はい、オランダのオフィスだとトイレも男女兼用が普通でした。あと面白かったのはフェスですね。
1人になりたいときのカプセルのようなスペースがあるのはやっぱり進んでいるなと。
スタートアップで取り組んでいるところを誘致して、実証実験の場としているんです。
中島
ブランディングに繋がりますね。
鈴木
そういった配慮や取り組みが自然とそこにある感じはありました。
ハード面での合理的配慮の話になるのですが、そもそもなぜこういうイベントにサステナビリティの考えが重要なのかから簡単に入りたいと思います。
トリプルボトムラインという企業の活動成果を経済・環境・社会の3つの側面から評価する考え方がありますが、SDGsでよく言われるのは、ウェディングケーキモデルで「健全な環境があって、初めて健全な社会が成り立って、健全な社会があるから経済が発展していく」という考え方です。
イベントも同じだと考えていて、重要度の高い目的は経済的側面だと思うのですが、 やはりそのベースの基盤社会とか環境が整っていないと良いイベントにはなり得ない、発展性・持続性が持てないのではないかと思います。
従来の イベントは直線型経済(リニアエコノミー) で成り立っていて 、生産して、使用した後は廃棄する という一本道しかありませんでした。
そうやって調達した素材から制作して、後は出口に向かって廃棄されていたものを、いかに適切に回収して、再資源化して素材に戻すか。それがこの図です。
事例をだすと、弊社と株式会社船場で主催をしたエシカルデザインウィークは、この観点を 意識して作ったイベントになっていました。
リースパネルといわれる2700mm×900mmサイズのイベント等で壁面を構成する部材があるのですが、それを壁面だけではなく、展示台として活用しました。
下の写真は、他のイベントで使用するための部材をほぼそのままベンチにしています。イベントが終わって制作スタジオに戻れば他のイベントの構造体に変わっていく、部材を前借りするようなイメージ です。
このような資源循環型のイベント設計を行なった上で、 実際にどれだけ資源循環ができたのか算定、可視化、評価する ツールとして「サーキュラリティ評価」を実施しました。
ビジュアルの左側が インフロー率で右側がアウトフロー率となっており、 インフローの方はそのイベントを開催するにあたってどれだけ資源循環型のものを調達できたか、アウトフロー はいかにそれをマテリアルリサイクルもしくはリユースに回すことができたか、パーセンテージで表します。
インフロー、アウトフローのそれぞれの資源を計量し、その数値をシステムに打ち込んでいくことで自動的にビジュアルが生成されるような仕組みを構築して作成しています。
エシカルデザインウィークですと、パネルを作るにあたっていくつか循環型ではない新しい資源の調達があったので 、 サーキュラーインフロー率は54%でした 。アウトフローは99%という評価でしたの、 その加重平均でイベント全体としての評価 は77%のマテリアルサーキュラリティ率となります。なお、リユース部材は原価が安いこともあり、コスト面でのメリットのある設計となりました。
環境負荷の低いWebサイトはユーザーフレンドリーで維持費が安い
鈴木
もう1つ事例を出すと、Webサイトにおいても環境負荷を抑えた構築 というのがポイントになってきたと思います。
私たちが毎日スマートフォンで行っているタップやスワイプという動作は、 実はCO2排出 に換算すると ドイツに次ぐ世界7位のCO2排出国となるほどの排出につながっています。
それを改善するために考慮するポイントとして 、効率的な構築を検討する 、見つけやすさ 、コンテンツの精査、UX開発手法ホスト選定など様々あります。 「環境の負荷を考慮したサイトはユーザーフレンドリーで維持費も安い」というデータも出ており 、今後Webサイトを構築する上で、こういうポイントもひとつのスキルになってくるのではないかと思います。
田中
ウェブアクセシビリティも最近、注目されています。既存のホームページに組み込むだけで、やさしい日本語に変えたりユニバーサル フォントに変換してくれる システムがあります。
鈴木
会場でのアクセシビリティや 情報の提供手段においても、配慮すべきポイントが多くあるではないかと考えています。
去年、我々もいくつかプロトタイプの制作にチャレンジしました 。1つ目は、「エレべーティングファーニチャー」という 目線の高さをセンシングして自動的に机の高さやパネルの高さが移動する可動式の展示システムです。車椅子の方、歩いてきた方、子供など 、常に、情報を適切な高さで掲出することが可能になります。
もう1つは「ブレススライド」という息を吹きかけることでスライドを切り替えることができる仕組みです。 これは、 手に制限がある方だけではなくて、荷物で両手がふさがっている方たちもコミュニケーションを取りやすいなど、幅広い方にアプローチできる手法となっています。
なお、イベントは、プロジェクトの発生から納品までの時間が短いことが多いので、 あらかじめ、このようなアイデアやプロトタイプの引き出しを多く持っておくことが重要だと感じています。
田中
似たようなものでアイトラッキングですとか、こういったものはすでに世の中に存在しています。しかし、それがうまく活用されていないことに加え、デザイン性が低かったり、楽しくない、つまりワクワク感がないことが結構ポイントだと思います。
鈴木さんの事例のように楽しい、ワクワクする というのはすごく大事だなと思っています 。「困っている方たちを助けるもの」ではなく、「誰でも楽しめるもの」というアプローチが重要です。
当事者の声を反映しながらイベントを創っていくことが大事
中島
今後の展望と課題について最後に伺えますか。
田中
私たちの活動でいうと、これまでは「超福祉」をテーマにしたイベントを大々的に行いながら、世の中にメッセージを大きく発信することに力を入れてきました。それを続けていく中で共感・共鳴する方々とつながり、同様にメッセージを発信してアクションを起こす方がたくさん現れ、社会が大きく変わり始めました。
そんな中、私たちの活動は次のフェーズに入っています。今はひたすら現場に入りながら当事者の方たちと日々向き合い、「超福祉の日常」をつくる活動に力を入れています。
普段は声を上げない、またはその声がなかなか届かない、いわゆるサイレントマジョリティー層にしっかりアプローチし、その声を丁寧に拾い、問題を表出させてそこから課題並びに解決策を見つけ出すことをとても大事にしています。
また、いかなる時でも「当事者を入れる」ということは本当に大事です。準備段階からちゃんと当事者の方々をメンバーに入れて行えば、いわゆる一般や健常者目線の間違った対応は生まれません。何より、それにより相互の理解が深まり、また一緒にやりましょうと次の改善やアップデートへと繋がります。
しかし、コストも大事です。モノの部分でもコト(サービス)方の部分でも、どこかで線引きしないと金銭的にも人的にもコストがかかりすぎてしまいます。前半でお話ししたように建設的対話を行いながら、双方が寛容に前向きな落としどころを探り、次に繋げてい区のが、誰もが参加できるイベントの実現への近道だと思います。
中島
経済合理性も含めて、合理的配慮を行っていく必要があるということですね。
田中
過度な負担を事業者側が負わないところがポイントかなと思います。
中島
鈴木さんは今後やってみたいことなどありますか?
鈴木
まず、現在行なっている資源循環を軸にしてイベントの環境負荷を下げていくという取組みは、環境負荷を出来るだけゼロに近づけていくということはもちろんですが、よりデザイン性の高いアウトプットをつくっていきたいと考えています。
ダイバーシティを捉えたイベントという部分は、まだまだ私たちが理解できていないことも多いので、学びながら、経験を積み重ねていきたいと考えています。
イベントは会期中の一時の効果だけではなく、人々の行動変容を起こしうるものだと思っています。行なっている取組みを通して、社会へよりポジティブな影響を与えることができるように、より様々なチャレンジができればと思っています。
田中
今日ご紹介したような社会的な取り組みに最近やっと、企業の方々が価値を感じてくださるようになり、そこに積極的に投資するようになってきたと強く感じています。
こうした取り組みは、今や従来の社会貢献活動やCSRなどのコストをかけるものではありません。
企業のビジネスとして、ブランディングとしてなどで、これからの時代に絶対必要なものになってくると思います。