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2024年8月5日、生成AI分野に特化したスタートアップ企業であるカサナレ株式会社の代表取締役CEO 安田喬一氏と、イベントのパートナーとしてITプロダクトを提供している弊社代表の中島による対談を行いました。
AIの活用が一般にも浸透し、さまざまなサービスに搭載され提供されるようになってきました。
イベント領域でも徐々に活用が始まってきているなか今回は、対談で語られた生成AIの現状とイベント領域での活用、今後の挑戦についてお伝えします。
生成AIの現状とカサナレについて
安田
カサナレを創業したのがちょうど2年前なんですが、それまで私はカスタマーエクスペリエンスといったような顧客体験系のコンサルタントに従事していました。「顧客体験を良くして売上につなげていくテクノロジー」として生成AIに着目し、エンジニアと共に事業を始めたのが、創業のきっかけになります。
ChatGPTが世に出たときは、まだAIが何に使えるかよく分かっていなくて、ちょっと文章を作ったり、人間のような受け答えができるというぐらいだったんですが「日常の業務の中に組み込んで、様々な課題を解決できるのではないか」と考えられているのが現状だと思います。
生成AIの活用を「既存のAIツールのLLMツール置き換え」「個人のリスキング(個人利用)」「DX推進」という3つの文脈に分けた場合、カサナレが注力しているのは3つ目のDX推進の部分です。
「DX推進」では、各企業の環境に合わせた構築を行う必要があるのですが、各企業が自分たちで生成への環境を作り、その後も運用していくのは負担が大きい。そのため、アプリレイヤーの私たちのような企業やコンサルが多く出てきていると感じます。
生成AIでは「正解データが入っているけど、間違った回答をしてしまう」ようなことが起きます。学習させた内容を誰がどうやって修正するのか。そして、不正解データを修正した後にAIに対して正しく答えるよう記憶力みたいなものを定着させないといけないんですが、どんどん新しくアップデートするのですぐに忘れてしまうんです。「今日は答えられるけど明日はダメだった」みたいな。
ですので、学習はできたとしても、修正の運用や記憶の定着というところまで自社でやろうとすると、かなりの負担になってしまいます。そのすべての課題にオールインワンで対応するのが、カサナレというサービスになっています。
中島
サービスといっても、お客様に深く関わるコンサルのような形なんですね。
安田
はい。プロジェクト形式で進めることが多いです。
AIが「教えてくれる」のではなく「やってくれる」体験
安田
Kasanare copilot(コパイロット※)は「ユーザーがやりたいことをAIが代わりに作業する」という体験ができる製品です。
例えば経済情報を画面上で見ているとき、ユーザーが「ゆうちょの金利が見たい」と言うと、通常のAIだと正解を教えてくれるだけです。
しかしCopilot では正解を教えるのではなく、そのために見るべき画面へと切り替えてくれます。
この「AIが教えてくれるのではなく、やってくれるという体験」がLLMにおける理想のカスタマーサクセス体験だと思っています。
中島
イベントでも、ただ教えてくれるのでなく誘導してくれて参加の登録まで代行してくれるとか、そこまでいくとコンバージョンも上がりそうです。
安田
例えば「カサナレのブースに行きたい」と言われて画面に予約リンクを出すこともできるんですが、表示をした上で、情報入力やクリックする箇所がわかっているのであればどんどん入れて進めていくみたいなことをしたいと思っています。
話し言葉の裏側に隠れた意味を正しく認識
安田
「アバターモード」はLLMで開発されたAIアバターチャットボットです。今までのAIアバターは決められたことしか返せなかったのですが、アバターモードは「それがいいかもしれない」などの言い回しに対しても案内してくれる、新しい体験を提供できます。
AIアバターには人間と同じように話しかける人が多いのですが「ビデオが映らないんだけどどうしたらいい?」と聞いてAIが「テレビにつなぎましょう」と返したら間違った回答です。
その人が話す日本語の裏側に隠れている意味を正しく認識するため、言語を収集しながら正しいデータをセットするということをしています。
中島
カサナレさんではLLMは主に何を使っているんでしょうか?
安田
主に生成AIはOpenAIのGPTのシリーズを使うことが多いんですが、違ったLLMを複数つないで、代表するLLMに選ばせるみたいなことをやったりもします。
例えば、営業トークでは正しいけれど言ってはいけないことも結構ある。そういう文脈を理解するのが強いCohere(コーヒア)といったLLMがあるんですが、遅いんですよね。
そこの性能をある程度持ったまま、どうやって正しい回答になるか、というところです。
イベントでの活用事例
①チャットボット
安田
イベントの実績でいうと、最初は去年の4月のイベントで、チャットの画面をLINEで出せるようにした案件です。ただ、LINEって入力するとストリーミング再生ができなくて体感的にすごい遅かったり、公式LINEにすると料金が高くなったりするので、その後どうしようか考えていたんです。
でも私と同じ創業者の西田が前職で就職関連のイベントをやっていて、イベントの良くないところや不便なところも分かっていたので、多分あったら面白いんじゃないかということで、いろいろな事業者さんにお声掛けさせていただきました。
その後、コミクスさんという会社のAi & ChatGPT展、リゾテック沖縄の公式チャットボックス、IVS2023やSansanさんのビジネスIT&SaaS EXPOやStartup JAPAN EXPOなどが実績となります。
コチラの記事も合わせてご覧ください
大規模ハイブリッドイベント。「リアル」と「オンライン」における体験とは。
あるイベントの予約画面にチャットボットを実証した時の話ですが、アンケートだとチャットボットがあることを分かっている方は9割くらいいらっしゃいましたが、、実際に使った方って1割もいなかったんですよ
そもそも「チャットボットは聞いても何も答えない」という先入観を持ってしまっているので、そこの体験を変える必要があるんじゃないかなと気付きました。
一方で、実際に使ってもらった来場者からは「人間のように教えてくれる」「関連質問を出してくれる」「システムレポートを作ってくれる」「出てくるとは思わないような質問に対しても的確に答えてくれる」という感想を頂いていまして、改善の余地はありますが、その体験自体はおそらく間違っていないと思います。
中島
そのイベントで一番多かった質問は何ですか?
安田
多かったのはトラブル系です。オンラインで同時開催していたんですが、喋っている人の声が小さくて聞こえないとか、予約しているはずなのに入れないとかですね。
ただ、トラブルを解決しても満足度が上がるわけではないので、ボタン一つ二つで新しい体験ができる、そういったことをもっと次回ではやりたいなと思っています。
中島
このAIには、どこまで情報を学習させておいたんですか?
安田
イベントに出展者さんが登録したデータくらいですね。
中島
これはその結果を返してるんですか?それとも検索してきた情報と元々持っている情報を合わせて出しているんでしょうか?
安田
範囲はですね、入力したデータだけの中からで、あまり外に出さないようにしているんです。というのも同じような名前の企業が結構あって。
話す内容はちゃんとAIがある程度考えて出せるようにする、というようなことで実現している感じです。
中島
場所の情報でいうと、例えばトイレがどことか飲食がどことか、その情報も学習させているんでしょうか?
安田
はい。
中島
本当はイベント会場内でスマートフォンを使いながら、コンシェルジュ的な活用をイメージして作られたけれども、オンライン側のFAQ的な使われ方がほとんどだったということですね。
これは参加者の意識ですよね。FAQに使うだけではもったいない。さっきのCopilotみたいな形に使ってくれると、すごくイベントの機会が最大化するというか、損失にならないというか、そこまでいけるといいですよね。
安田
そうですね。スマホを持っていらっしゃる方がほとんどなので、そもそもチャットボットがあるという時点で良くないと思っています。
イヤホンで会話できて画面が切り替わってくれるというような状態になれば、あったほうが絶対便利なので来場者も使ってくれるだろうと思っていて。
中島
UI大事ですよね。
安田
イベント会社さんなどでも、自社でチャットボットを作ったりしていると思うんですが、チャットボット的なものを出すだけでは体験もあまり変わらないし、使ってもらえないので、ここからさらに使えるものをどうやって出すのかというようなところを考えていかないといけない。
中島
レポートもいいですよね。さっきおっしゃっていたPDFのフォーマットで出てくるとか、自分が回ったログがEXPOLINE側に残るので、それが全部蓄積して「あなたはこのブースとこのブースを回りました」という、サマリーになって出てくるといいですよね。
②AIアバター
安田
アバターを出しながら開催したイベントでは、そこに人が立ち止まることが多くて。
中島
入力するんじゃなくて、会話ができるんですね。
安田
そうです。これはかなり使ってくれました。一方で、会場や配布物にリンクを付けた大きなQRコードを貼ったりもしたんですが、こちらは誰も気づかないみたいな状況で、やっぱりこの路線はないなと。
「体験の中に組み込む」のが大事だと思います。
中島
必然となって通る導線の中にこの仕組みが組み込まれてないと、案内しても誰も使ってくれないと。まだまだ啓蒙していかなきゃいけないですね。
③オリジナルパス
中島
スプラシアの事例ですと、我々は画像の生成に最近チャレンジしていまして。
あるイベントでは、「来場者の出身地」「会社の所在地」「興味のある分野」など、事前アンケートの情報を流し込んで、絵柄の入ったその人の特有のパスを生成して提供するといったことをやりました。
名古屋だったらしゃちほこが入っていたり、味噌カツが入っていたり、一人一人絵柄が違うので、これを話題にしてイベントの中で会話をしてもらったり、懇親会の時に使って頂きました。
あと、パスをお土産にすることでイベントに参加したことが思い出になるといいなという気持ちも含め、そのようなAIの活用をしています。
チューニングの重要性
安田
例えば、問い合わせに対して「正しい回答」が90%、「正しくない回答」が10%という精度の仕組みを作ろうとした場合ですが、データは定期的に更新されますし、様々な質問が投げかけられるので、「正しくない回答」のところを継続して直していくことが必要なんですね。
カサナレが一番評価されているところは、90%の回答精度ではなく、残りの10%をちゃんと修正していく仕組みがあるという点になります。
中島
「チューニングが大切だ」という点なのですが、我々がカサナレと連携したイベントプラットフォームを提供していたとして、Aの展示会で頑張って精度を上げていったとしても、Bの展示会には反映されないということが起こってしまうのでしょうか?
安田
過去に、一つのイベントの回答精度を上げるためにすごく頑張ってデータを作ったんですが、他イベントではやっぱり使えませんでした。
そうやらないためには大量のデータを使ったり、参照先のデータを自動化してAIに取り組ませるという、別のテクノロジーが必要になってきます。
私はポジティブにとらえているんですが、イベントは1回ごとにデータが全部変わるという特性上、AIとあまり相性が良くないと考えている人が多いですね。
中島
カサナレさんには、ぜひチャレンジして頂きたいです。
問い合わせ対応の効率化
安田
この事例はあるパソコンショップのサイトなんですが、お問合せに対して、Salesforceの中に入っている過去の問い合わせや購入履歴を参考に、自動でメールを作成します。
これまでは、担当者が一から作成し返信に時間がかかっていたのですが、「自動で作成されたメールを、担当者が編集して送る」という形になったことで業務の効率化を実現しました。
中島
素晴らしいですね。イベントに置き換えると、主催者が出展者からの問い合わせに対して、その人独自の回答を返せるような状態になっていると。これは私が一番やりたかったことの一つですね。
分析フィードバック
中島
展示会で取れたリードが時間軸になって出てきたり、「今年は2コマで出たんだけど、来年4コマで出るとどうなるのか」「うちと同じ規模ぐらいのブースの他社がどのくらいリードが取れているのか」が出てきて、費用対効果がわかったりするといいですね。たとえシンプルな情報でも、プラットフォーム側が出展の成果や課題をレポーティングしてあげるような機能があったら、展示会に出展をする意義みたいなものが見えますし、次につなげていきやすくなる。
主催者の代わりに営業してくれてもいいですし。
安田
会場に来た人がどこを回ったかというデータから「こういうイベントがあなたに合っています」というような新しい集客もできるので、その集客が欲しくて出展してくれる企業というのも生まれるのではないかと。
中島
決済者がイベント会場にいたのか、何パーセントくらいリードできたけど実は何パーセントは会えてないから、また出展しなきゃと気づく、そういうレベルまでいけるといいですよね。
AI活用のガイドラインと注意点
安田
今までAI利用に関する責任は「開発者」にあるとされていたんですが、経済産業省のガイドラインですと「提供者」にも責任と期待される行動が定義されています。
イベント主催者が「提供者」の役目が担うとなったときは、「開発者」である我々とタッグを組んで絶対に出展企業が安全なものを作るということが、すごく大事なんじゃないかなと考えています。
中島
対象者の情報を学習させるほどリスクが高まっていきますね。弊社でもガイドラインを頭に入れておかなければいけません。
今日のお話をしていて思ったのは、ただ「AIと連携しました」みたいな話では到底なくて、一緒に作り上げて責任を負担しながら提供していかなければということです。自社でやろうというのは難しくて、タッグを組んでいかなきゃいけないんですね。