イベントの入場ゲートでは、しばしば行列と待ち時間が発生します。
多くの来場者が受付に滞留してしまうことに、頭を悩まされている主催者様も多いのではないでしょうか?
今回は、カメラの前を通り過ぎるだけで受付が完了する次世代の2次元コード「ArU-code(アルコード)」を提供するワム・システム・デザイン株式会社の永岡章好氏と、対談を行いました。
QRコードとは全く違う機能を持つArU-codeによって、イベントはどう進化するのか。その可能性について考えました。
ArU-codeとQRコードの違い
中島
イベントや展示会では、「どの来場者がいつ入退場し、どのコーナーを巡ったのか」という情報が、マーケティング活用のために重要です。
しかし、小規模のイベントでは未だにそれをエクセルで管理したり、大規模のイベントでも受付に行列を作って、お客さんを捌くということをしている。
この待機列に頭を悩ませている主催者様にとって「ArU-code」というシステムはその解決策に近いのではと思っています。
最近、色々なイベントでスプラシアのイベントプラットフォーム「EXPOLINE」と連携してクライアントに提供させていただいていますが、最初に貴社についてお伺いできますか?
永岡
ワム・システム・デザインは、主に物流業界で「倉庫管理システム」と「画像認識技術を活用したシステム」の開発・販売を手掛けている会社になります。
最近スプラシアさんと連携させていただいている「ArU-code」は、弊社が独自開発したカメラで認識できる2次元コードで、 人やモノに貼ったコードをカメラに写すだけで 対象物の管理が可能になります。
物流の現場では「大量の段ボールから対象の一箱を探す」「何台ものトラックに荷物を仕分ける」「棚卸」といった工程が、これまで目視によって行われていました。ArU-codeを活用いただくと、これらの工程が「各段ボールに印字されたコードを、iPhoneやiPadのカメラで遠くから読み込む」だけで完了します。

ワム・システム・デザイン 永岡氏
中島
スプラシアは、そのシステムをイベントの入退場管理に採用させていただいています。
具体的には、ArU-codeを印刷した紙を来場者のパスケースに入れて首から下げてもらい、会場の入り口に設置したカメラ(iPad)の前を通り抜けるだけで受付が完了していくという仕組みです。
11万人が来場したイベントでも待機列が一回も発生しなかったのは、とても驚きました。まずQRコードとの違いについてお伺いできますか?

入場管理のイメージ
永岡
ArU-codeとQRコードは仕組みが大きく異なります。
QRはもともと読み取り対象が1つのものをレーザーで認識する技術で、それをカメラでも認識できるようにしたものが使われている。ArU-codeはカメラで画角の中のコードをすべて認識するように最初から想定した技術となります。
QRコードはセル数が多くコード自体が大量の情報を格納していますが、ArU-codeの元となる「ArUco(アルコ)」はQRコードより画素が低く、シンプルなID値のみを格納しています。
QRコードと比べてArUco は「長距離から認識できる」「一瞬で複数をまとめて認識できる」「動きに強く正面からでなくても認識できる」といった大きなメリットがあるのですが、パターン数が1,000しかないので、単体では人やモノの管理業務には使えません。
※ArUco(アルコ)…もともとはAR(拡張現実)システムの分野で空間認識のための「目印」として使われていたオープンソースライブラリ。
そこで弊社は、2つ以上のArUcoを組み合わせて1つのコードとして認識する技術「ArU-code」を開発しました。
たとえばカメラで2つのコードを読み取ると、システム上で2つのID値が独自のアルゴリズムで処理され、サーバー内のデータベースと紐づけられます。コードを2つ以上組み合わせることについては色々と苦労したのですが、和歌山大学さんとも研究を重ね、今は業務での活用に十分な、数百億ものパターンを確保できています。
コードを3個以上配置するケースはほとんどなく、2個で十分なことが多いですね。
複数のARマーカーを組み合わせて1つのコードとして読み取る仕組みについて、
弊社は特許を取得しております。
他にもコードの読み取りなどに関する技術で多数の特許を出願・取得済です。
(取得済15件、出願・審査中12件)。

ArU-code の認識技術
永岡
QRコードと違ってコード自体にはID値しか格納していないので、情報漏洩のリスクも低くなります。
中島
コード自体ではなく、システム上に全ての情報を格納しているんですね。だからもしコードが流出しても個人情報の漏洩にはつながらず、セキュリティを担保できると。
ArU-Codeの特徴とイベントでの活用
中島
ArU-codeは、元々どういうきっかけで開発されたんですか?
永岡
最初は、ある工事現場のDX化のために開発しました。
ヘルメットや社員証にコードを貼り付けて、荷物を持っていてもゲートを通るだけで入退場の管理ができるようにしたんです。
また、熱中症対策も重要な現場でしたので「ちゃんと休憩室に入って水分補給をしている」というエビデンスを残す為にも活用しました。コードはカメラで読み取りますので、入室確認と同時に飲み物を持っている写真も残せるんですよ。
中島
面白いですね。
永岡
それから物流の倉庫などでも活用されるようになりまして。たとえば、荷物の仕分け時の検品も「段ボールが積まれたパレットの周りを、iPadのカメラをかざして1周する」だけで終了します。検品を目視で行うと、やはり間違うんですよね。
中島
先ほどArU-codeは「長距離からでも認識できる」というお話がありました。
永岡
A4の紙にArU-codeを印刷すると、12メートル先からでもiPadのカメラで認識可能です。展示会場ではロケーションの案内などにも使えるかもしれません。
中島
同時に認識できるコードの数は何個までですか?
永岡
カメラの処理スペック次第で、100コード以上でも同時に読み込めます。同時に10個しか読まないよう設定したりもできます。

複数のコードを同時に処理可能
中島
QRコードでは同じことはできないのでしょうか?
永岡
大量のQRコードを、同時に読み込むことは難しいです。読み込むのに時間がかかりますし、コードの正面に向き合わないといけない。ArU-codeは斜めからでも読み込めますし、現場の方が楽に使えて導入しやすいという点は大きいと思います。
中島
長い距離がOKで、斜めがOKで、薄暗くても大丈夫で、数が多くても大丈夫だと。
永岡
そうですね。あと動いていても大丈夫です。
中島
秒間何名を認識可能ですか?
永岡
1秒間に大体25名前後です。
中島
1分で1500?すごいな。
永岡
やはり人が多いイベントほど、生きてくると思います。
中島
精度はどうでしょう?
永岡
ピントさえ合えば100%です。違ったコードに誤認識することもないので、ピントが合うかどうかが課題ですね。
中島
イベントの入場ゲートだと、カメラから近い位置にいる人と、遠い位置にいる人が発生しますが、その2人にピントを合わせて同時に読み込むのは難しいですか?
永岡
カメラの性能次第で変わってきます。ただ、もしカメラから5メートルの距離で読み込みたいのならピントを固定して「このラインを通るときに読み込みます」という形で運用したりもできますよ。

分間1,500名もの入場を管理
出展社や作業員の行動管理の活用事例も
中島
イベントの現場では今後、どのように使われていくと思いますか?
永岡
ArU-codeだけで何でもできるとは考えていませんので、QRコードなど、他の手段と併用しながら導入していく形になると思います。
中島
たしかに、「総合受付だけArU-codeを採用して、セミナー会場の入り口(通路の人もカメラに映りこんでしまうことがある)ではQRコードを使う」というふうに、エリアによって切り分けは必要かもしれません。
先日の大きな展示会では、入退場はArU-codeで管理し、各ブースで来場者のパスケースを読み込むときは、QRコードを使っていただきました。これは主催者が元から使っていたシステムを、そのまま活用したかったからです。
永岡
その展示会では、スタッフや施工会社の方の入場管理にもArU-codeを使って、誰がどこを通ったかすぐわかるようになっていましたね。
中島
施工中は多くの台車が行き来しますし、いちいち立ち止まらせてQRコードで管理するなんて不可能ですから。
その展示会では、来場者・スタッフほぼ全員に「事前にEXPOLINEから登録してパスを印刷し、持って来てください」という形をお願いしたのですが、ほとんどの方がちゃんとパスを印刷して持ってきてくれました。
永岡
パスを現場で発行しなくていいのは、大きいですよね。

来場者証・出展社証のイメージ
行動データの活用の可能性
永岡
ArU-codeが色々なシステムと連携していくことで、今後も様々な可能性が考えられると思います。
データをインプットするツールですので、そのデータをアウトプットして他のシステムと連携することで、応用が可能になります。BIツールに蓄積したりヒートマップを作成するなどがその一例ですが、ID値だけをやり取りするので通信量も小さいんです。
中島
アウトプットしたID値をEXPOLINE側の個人情報とマージして、「この人は入場OK、この人は入場NG」と色分けしたりもできますね。
永岡
近年は顔認証技術も発展してきており「人が何人いる」かはAIで分析できるようになっています。しかし、色分けのように「属性を付ける」という点では、まだまだコードが有効です。
中島
あと「リアルタイムでの入場者数制限」なんかもできるんですよね?
永岡
コロナ禍の時、密を防ぐためにそういった話がありました。「データを全部取りたいけど、受付に時間がかかるのは良くない」というシーンですね。
中島
最近ご一緒させていただいたイベントだと、来場者の方が「なんだ?このQRコードは」と、非常に驚いてくれました。毎年開催しているイベントには何かしら新規性を求められますから、「来場者に新しい体験を提供できる」という点でも、価値が高いかなと。

弊社代表 中島
永岡
みなさんQRコードだと勘違いされるんですよね(笑)。
中島
ArU-codeの弱点は何でしょうか?
永岡
「コピーを印刷したら誰でも入場できてしまう」という点でしょうか。有料のイベントでは工夫が必要になります。
たとえば、「生体認証(顔・指紋・虹彩等)との組み合わせでの運用、
あるいは、簡単に用意できない印刷媒体やケースと併用する」といった形での運用が考えられると思います。もしくは、会場の入り口で同じIDは一回しか読み込まないとか、入り口で受付されていないコードが会場内で読まれたらエラーを吐き出すとか、ちょっとした工夫で、ある程度不正行為は防げるかと。
中島
入退場だけでなく「各会場エリア・時間帯ごとの人流の変化が分かる」ことで、データ駆動型イベントの実現につながりそうです。
たとえば、展示会場のレイアウト設計。ヒートマップというお話がありましたが、会場全部を把握しようとするとカメラが大量に必要ですので、ある程度エリアを区切ってやるのが良いとは思いますが。
永岡
展示会ですと、人があまり通らない通路があると出展者さんからのクレームにつながってしまいます。通路をカメラで録画してAIで通過する人数を数えたり、属性まで必要ならArU-codeで分析したりすれば、出展者さんにも具体的な数字を見て納得してもらえるのではないでしょうか。
今後の展望
中島
今後の展望をお聞かせいただけますか?
永岡
Android対応や、感知カメラへの対応も進めていければと考えています。
また、物流分野ではAGV(無人搬送車)の会社さんと連携して、作業ロボットのカメラにArU-codeを組み込めないか、実証実験を行う予定です。たとえば、夜中のうちに勝手に棚卸しをしてくれるロボット。人がいない時間帯なら安全への心配も少なく速度を大きく上げられますので、効率性も上がります。
中島
イベントでも、カメラ付きのロボットは活用できそうですね。すでにロボットを活用しているイベントはありまして、会場を周回しながらプロモーションや会場の案内を音声で流したりしています。
それに加えて「この人が誰か」ということを認識しながら動き回って、「あっちであなたが興味のありそうなセミナーをやっています」と教えてくれたり、よりパーソナライズされたクリティカルな情報を流せるようになると、面白いかもしれない。
なお、EXPOLINEではすでにArU-codeを実装可能な状態です。これからもワム・システム・デザインさんと協力しながら、いろいろな挑戦をしていきたいですね。
永岡
そうですね。ArU-code自体も改良しながら、イベント主催者や来場者の方々のニーズをつかんで、バージョンアップしていければと思います。
【注意喚起】ArU-codeに類似した技術について | ワム・システム・デザイン株式会社
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