スプラシアは2024年、11万人が来場する日本最大級の合同展示会のパートナーとしてITプロダクトイベントプラットフォームを提供し、イベントDXに取り組みました。
展示会の「イベントDX」とはどういうことなのでしょうか。スプラシアが今回実施したプロセスについて、ご紹介をしていきます。
11万人が来場 日本最大級の合同展示会
展示会の「イベントDX」とは
ひと昔前の合同展示会では、受付の行列に並んでいただき、5分10分かけてやっとパスをお渡しできる、会場の中に入った後は、ただブースを見て終わり、来場者の行動は何もシステムに残らない、いつ帰ったかもわからないという状態でした。
弊社ではその状況を変えていきたいと考えています。来場者の動きや出展者の成果をリアルタイムに把握してイベントの効果を最大化する、それを実現していくために色々な機能やサービスを提供していく。そういうことが展示会のイベントDXだと考えています。
今回、事例としてお話しさせて頂く合同展示会をお手伝いさせて頂くのは今年が初めてだったのですが、我々は主に「公式サイト」「来場者向けアプリ」「出展者向けアプリ」「入退場管理システム」をご提供させて頂きました。各プロダクトで新しいチャレンジを多く行っているので、その点についてお話しできればと思います。
コストを抑えながら公式サイトを多言語化
今回の展示会は海外からの来場者が多く、全体のうち5,000から6,000人くらいが海外、特に中国から来られていました。
主催者からも「公式サイトの多言語対応」という希望があったのですが、日本語サイトの全てのテキストを翻訳し原稿を作成するとなると、予算と時間が合いませんでした。だからといって「ブラウザの翻訳機能を使ってください」というのでは不親切すぎます。
そこで、弊社のイベントプラットフォーム「EXPOLINE」と他社のWebサイト翻訳サービス(shutto翻訳)を連携して、英語と中国語への多言語対応を行いました。
「EXPOLINE」はカスタマイズ性の高さが特徴なのですが、このように他社のサービスと連携したり、ニーズに柔軟に対応できることは弊社の強みだと思います。
1回の登録で別のサービスも利用可能(シングルサインオン)
また今回の展示会の特徴の一つとして、外部マッチングサイトとの連携がありました。この外部サイトは「業界特化型のマッチングサービス」で、展示会の主催者とは別の会社が運営している、メーカーとユーザーを結ぶマッチングサイトです。
来場者は、このマッチングサイトであらかじめサービス・メーカーを見つけてから展示会に来て商談することもできますし、展示会に参加した後にマッチングサービスを利用することもできます。
しかし、展示会と別にマッチングサイトにも再度登録しないといけないようでは、利用が促進されません。そこで、この外部マッチングサイトに展示会で登録した時と同じIDでログインできるようにしました。(シングルサインオン)
イベント単体ではなく、イベントの前後も含めてより広い顧客体験をご提供する、その一助になったのではないかと思います。
来場者マイページとスマホアプリを連携
来場者には、公式サイト上の「マイページ」と、スマホで利用する「アプリケーション」の2つを提供しました。これらには「お気に入り」「セミナー登録」「名刺交換」「カタログダウンロード」「出展社問い合わせ」といった基本的な機能がそろっています。
今回新しかったのは、すべての体験がシームレスにつながるよう連携させたということです。
例えば、PCのマイページでお気に入り登録した企業は、「マイマップ登録」され、スマホのアプリケーションのマップ上にも☆印が表示されます。自分の現在位置もマップ上に表示されるので、会場内で次の行き先を簡単に把握できます。
なお、今回スマホアプリは他社が開発しており、去年も利用していたアプリを弊社のイベントプラットフォーム「EXPOLINE」と連携させる形で活用しました。なおこのような場合、アプリの開発会社との打ち合わせも弊社が行いますので、主催者は2社と別々に打合せをする必要はありません。
先ほどの外部マッチングサイトとの連携もそうですが、他社ITプロダクトとのつなぎ込み、そのための他社との打ち合わせまで、全て弊社に一括でオーダーして頂けるというところは、弊社の強みである「カスタマイズ性」「ディレクター伴走」という点が生きているのではないかと思います。
無料でIDリーダーを提供 出展社が保有しているスマホでOK
出展者向けのアプリケーションでは、来場者のパスを読み込んでデータを取得できるIDリーダーを提供しました。
今回新たな試みとして、PWA(Progressive Web Apps)という技術を用いています。これはいわば「Webサイトをまるでネイティブアプリのように利用できるようにする仕組み」です。
たとえばGoogle Playやアップルストアからインストールする通常のアプリですと、AndroidとiOSに適応した2つのアプリケーションを作らないといけませんが、PWAで作ればインストールは不要でAndroidとiOSどちらでも利用可能です。
PWAの大きなメリットは「端末を選ばない」という点です。個人のスマホ、会社から支給されているスマホ、部署で保有しているiPadやAndroidのタブレット、何でも使えるので主催者から機材を提供する必要性がありません。
また、セキュリティ上の理由から社内の機材にアプリをインストールできない出展社も多いですし、アップルストアからアプリを10台分インストールするためにアカウントを10個作成するのも大変です。
今回PWAとすることでそのような導入のハードルを下げ、ユーザーフレンドリーで出展者が使いやすいIDリーダーになったと思います。
PWAの最大のメリットは利用者のハードルを下げて利用率を上げること
IDリーダーでは、QRコードの読み取りで参加者の情報が取得できる他に、ステータスやメモを登録することが可能です。このステータスは出展社ごとに設定をすることができるため、各企業のリード管理方法に合わせたステータス設定ができる点も出展社フレンドリーな機能かと思います。他にも細かな機能として、PDF送付機能や送付したPDFの開封ログ、メッセージ送信機能なども付帯していました。
また、こちらのアプリは無料で提供しています。何人読み取っても費用は発生しません。他の展示会ではIDリーダーで読み込んだ名刺の数によって課金されることがありますが、名刺を取れば取るほどお金かかかるというのは出展社としては非常に歯がゆく、数をコントロールする面倒さも出てきます。
そのような制限はなくした方が、たくさんの出展社に使って頂けますし、そこに情報がたくさん溜まってくることによって新たな価値も生まれます。
今回は実装していませんが、将来的には、展示会1日目が終わった段階で、ダッシュボード上で他社と名刺の獲得枚数などを比較できるようになればいいなと考えています。
たとえば自分の会社が1日で名刺を300枚獲得したとして、B社は400枚取っている、C社は1000枚取っている、D社さんは15枚しか取っていないという風なデータが見えれば、自分たちの出展がうまくいっているのか比較しながら考えられます。
出展者がイベントに参加した成果を最大化するために、主催者がより多くリッチな情報を提供できる形を作っていく。そのまず第一歩というところで今回のPWAを活用した出展者向けのアプリケーションというのは、「まず多く使ってもらいやすい環境を作る」という点で、非常に効果的だったかなというふうに考えています。
受付を無くし、入退場をシームレスに
入退場の管理には今回はじめて、工場や物流の現場でよく利用されている次世代2次元コードを採用しました。
この次世代コードはQRコードと仕組みは似ているのですが、「カメラによる遠距離での高速一括読み取り」が可能な点が異なります。たとえば「複数の段ボールに貼られた管理用コードを、iPadのカメラで一度に読み取る」といったことが可能です。
来場者には、このコードを印刷した用紙をパスケースに入れ首から下げてもらいました。
会場のすべての入り口にはカメラ(iPad)が1台ずつ設置されており、来場者たちはわざわざ立ち止まって「ピッ」としたりしなくても、カメラの前を歩いて通り抜けるだけで次々と受付が完了して入場できます。
カメラで入場パスを高速読み取り 止まらず入場かつその後の動きも把握
また、入場だけでなく会場から出たり入ったりするたびに自動で記録されるので、イベント全体での人の動きまで、リアルタイムで把握できます。
これは主催者・来場者どちらにもメリットがあります。まず主催者からすると受付の人員や機材、造作が全て必要なくなるので、コスト的にかなりインパクトがあったと思います。「ちゃんとパスケースがカメラに映るようにしてください」という案内をする人員はどうしても必要だったのですが、旧ラインと比べれば圧倒的にスピード感や人的コストが改善されています。
来場者も名刺を2枚出すとかそういう手間や時間の無駄もなく、会場に来たら受付で立ち止まることもなく、そのまま入っていける。このシームレスさというのは今までにない体験だったのではないかと思います。
このパスケースに入れる用紙なのですが、基本的に「マイページから印刷して自分で持ってきてください」と呼びかけました。今回約11万人いらっしゃったのですが、その中で印刷を忘れてきた人は1割にも満たない数でした。10万人以上の人が印刷をして持ってきてくれたわけです。
もちろん忘れた人のために、プリンターも用意しました。メールのQRコードから自動印刷する仕組みで、印刷コーナーに3台、各入り口の脇に1台という少数だったのですが数人の待機しか発生しませんでした。
11万人という規模のイベントで、来場者にパスを印刷してきてもらい、あれだけスムーズに人が流れていったというのは、かなり革新的だったのではないでしょうか。
今後の課題とチャレンジについて
今回の合同展示会をふりかえってみると、単純なデジタル化ではないデジタルトランスフォーメーション、「新しい価値が作られていく」といったところまで、少し実現できたイベントだったと思います。
今後の課題を挙げるとすれば、グローバル化(海外来場者の誘致)、出展社の満足度向上 のため登録データを精緻化させ量を増やすこと、イベント会期前後の取り組みを増やすこと(主催者にとってはマネタイズポイントを増やす目論み)などでしょうか。
今後も「今までエクセルで管理していたものをプラットフォームにしました」みたいな話ではなく、様々なステークホルダー、出展者、主催者、来場者が、よりそのイベントの体験を良いものとして持ち帰っていただくということを実現するための機能として、ここまでお話したようなことをご提供していきたいと考えています。